最高裁判所第三小法廷 昭和24年(オ)219号 判決 1950年7月11日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人高井吉兵衛上告理由は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
第一点について。
論旨は、訴訟上自白の徹回は、相手方において其の自白を援用する以上其自白は錯誤に出でたること及び其取消を主張することの二事実があつて初めて裁判所は其の自白の取消の適否を判断すべきものであると主張する。しかし記録を調べて見るに、被上告人(被控訴人)は所論三万円の小切手について従前の主張を徹回し之と相容れない事実を主張したことが明らかであるから被上告人(被控訴人)は右三万円の小切手についての自白の取消を主張したものと解すべきは当然である。そして原審においては、被上告人(被控訴人)が右三万円についての主張を撤回したのは錯誤に出でたるものであることが明らかであると認定して居り其の認定は相当であると認められるから、原審において自白の取消につき所論のように判断をしたことは当然であつて何等違法はない。
第二点第三点について。
当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上その自白は錯誤に出たものと認めることができるから原審において被上告人の供述其他の資料により被上告人の自白を真実に合致しないものと認めた上之を錯誤に基づくものと認定したことは違法とはいえない。論旨は独自の見解に基づくものであるから採用し難い。
よつて民訴第四〇一条、第八九条、第九五条により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員の一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)